2008年、オークションカタログで出会った「美味(みみ)ちゃん」の衝撃――会田誠はなぜ“変○”に見えるのに超大物なのか?

1.十数年経っても頭から離れない「トラウマ級」の記憶

2008年頃、当時勤めていた会社で美術品のオークションカタログを何気なく眺めていたときのことです。

整然と並ぶ無数の作品の中に、一瞬で目が点になり、思わず二度見してしまう異様なページがありました。

画面に描かれていたのは、切り刻まれた女の子がイクラやタラコと一緒に盛られていたり、太巻きの具材にされている絵――会田誠さんの代表作『食用人造少女・美味(みみ)ちゃん』シリーズでした。

当時の正直な感想は、

「うわ、なんだこの人??ヘンタイ??趣味悪っ!」

というドン引きと困惑そのものでした。ですが、絵は物凄く上手く、少ない線で少女の肉感をこれだけリアルに表現できるなんて、只者ではないと感じました。

カタログには他にも色々な作品が掲載されていましたが、会田さんの作品のインパクトが強烈すぎでほとんど覚えていないという。

そして、ズラリと並んだ作品群の中で気になってわざわざ名前まで検索して調べたのは、後にも先にも「会田誠」という作家ただ一人だけでした。

そして十数年が経った今でも、私の頭にこびりついて離れないのは、あの「美味ちゃん」の衝撃だけなのです。

会田誠さんといえば、今では誰もが知る世界的に有名なアーティスト。

もしかしたらあの作品は複製画だったかもしれませんが、今になって「あの時、買っておけばよかったのかな?」なんて思うことがあります。そして同時に、ふと疑問が湧いてきたのです。

素人目には「ただの過激な変○」に思える絵が、なぜ美術の世界で何百万円、何千万円もの値がつき、日本のトップアーティストとして評価され続けているのでしょうか?

2. 「買っておけばよかった」は本当だったかも??

2008年当時の会田誠さんは、海外の有名ギャラリーやオークションで一気に注目を集め始めていた時期だったそうです。

その後、2012年に森美術館で大規模な個展が開かれ、その評価は決定的なものになります。

あの時、無数の作品の中から「気になって名前を調べる」ほど強烈に惹きつけられた自分の直感は、アート市場の爆発前夜を捉えていたことになります。

ですが、会田さんに限らず、同じアーティストの作品でも値段にばらつきがあるようで、仮に自分がみみちゃんシリーズのどれか一つを購入していたとしても必ずしも値段が爆上がりするわけではなさそうです。

ですが、作品によっては高値で落札されたものもあるとか。

でも、ただ「グロくて珍しいから」高くなったわけではありませんでした。

3.なぜ過激なのに「すごい芸術」とされるのか?

絵のことに詳しい人に話を聞いたり調べていくうちに、彼がただの過激なパフォーマーではない理由が見えてきました。

① 実は「絵が恐ろしいほど上手い」

彼は東京藝術大学の大学院で首席クラスの評価(買上賞)を受けた、超エリートの画家です。 『美味ちゃん』も、食品サンプルのように色鮮やかで、商業デザインみたいに綺麗に描き込まれています。もしこれが落書きみたいな下手くその絵だったら、ただの不快な猥褻物として捨てられていたはずです。「絵として美しすぎるからこそ、グロテスクさが際立って目が離せなくなる」という計算された罠だったのです。

② 「少女のポルノ」ではなく「オタク社会への毒」

彼は単に自分の性癖を自慢したくて描いているわけではありません。「アニメや広告で“可愛い女の子”を商品として消費しまくっている現代社会」を風刺しています。「美少女を消費するオタクの欲望を極限まで突き詰めたら、本当に食べる(食用にする)ことになっちゃうよね?」という、強烈な毒と皮肉を絵に込めているのです。

4.本当にすごいアーティストは「行動させる(検索させる)」

今回、10年以上前の記憶を思い出してみて、アートの凄さについてひとつ気づいたことがあります。

本当に歴史に残るようなアーティストって、単に「綺麗な絵を描く人」ではなく、「見た人に思わず名前を調べさせてしまうような強烈なフック(ノイズ)を作れる人」なんじゃないかということです。

心が癒やされる綺麗な風景画は、見た瞬間に「素敵だな」とは思っても、時間が経つと脳からスーッと消えてしまいがちです。 でも会田誠さんのような作家は、「不快感」や「違和感」という毒を、圧倒的な絵の巧さで包んで差し出してきます。

脳の中で「美しい絵だな」という気持ちと「うわ、気持ち悪い」という気持ちが喧嘩した結果、「なんだこの人は!?」と名前を検索させ、誰かに話したくさせ、十数年後にも思い出させてしまう。

カタログの前でPCを開いて「会田誠」と打ち込んだあの瞬間に、私はすでに彼の恐ろしい仕掛け(絵画構造)にまんまとハックされていたわけです。

(個人的にこの人の描いたアマビエの作品は欲しかったりします。)

5.まとめ

2008年のオークションカタログで出会った「美味ちゃん」は、当時の私にとってただの気持ち悪さしかありませんでした。

美大を出たわけでも、美術評論家でもない私ですが、十数年経った今、あの時の「思わず名前を調べてしまった衝動」からアートの面白さを教わった気がします。

心を穏やかにしてくれる絵も素晴らしいけれど、観た人の行動を変え、一生記憶にへばりついて離れないような毒のある絵も、ある意味アートの形なのではと思います。

みなさんの記憶の底にも、思わず名前を検索してしまったような「忘れられない一枚」はありませんか?

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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